実家じまい・空き家

相続放棄した家の解体費用は誰が払う?保存義務と清算人の整理

相続放棄した実家の解体費用は誰が負担するのか。2023年改正民法940条の保存義務、相続財産清算人、空き家対策の流れを整理し、弁護士へ相談する前の準備をまとめます。

しまいごとノート編集部
相続放棄後に残された古い木造の実家と、机に置かれた家庭裁判所の書類
目次
  1. 相続放棄をしても建物の保存が残る場合
  2. 解体費用は誰が負担するのか
  3. 解体や家財の片付けが「承認」とみなされるおそれ
  4. 相続財産清算人と、空き家として行政が関わる流れ
  5. 家庭裁判所・弁護士へ相談する前にそろえるもの
  6. まとめ

相続放棄をしても建物の保存が残る場合

実家を含めて相続放棄をしたのに、築50年の木造住宅がそのまま残っている。近所から瓦のずれを指摘されることもあります。放棄をした人が最初に整理したいのは、自分に何が残っていて、何が残っていないかという線引きです。

2023年4月1日に施行された改正民法で、940条1項の義務の範囲が見直されました。法務省の案内では、相続放棄をした人が保存の義務を負うのは、放棄の時点で相続財産を現に占有しているときです。その場合、ほかの相続人や相続財産清算人に引き渡すまで、自分の財産と同じ注意で保存します。改正前の条文は「管理を継続しなければならない」という書き方でした。遠方に住む放棄者まで負うのかどうか、条文から読み取りにくい内容でした。

どこまでが「現に占有」にあたるかは、個別の事情で判断が分かれます。亡くなった親と同じ家で暮らしていた子と、県外に住んで10年以上立ち入っていない子とでは、立場が異なる可能性があります。鍵を預かり月に1回換気に通っていた、というような事情も含めて、自分の状況を事実として書き出しておくと相談の場で話が進みます。

この義務は、財産の価値を保つためのものです。条文の文言は、建物を取り壊してよいという意味には読みにくい内容になっています。

解体費用は誰が負担するのか

民法939条により、相続放棄をした人は初めから相続人でなかったものとみなされます。そのため、建物の所有者として解体費用を負う立場には原則として立ちません。費用の出どころは、残った相続人や手続きの進み具合で変わります。

状況建物の扱いを決める人費用の出どころ
放棄していない相続人がいるその相続人相続した人の負担
全員が放棄し、清算人が選ばれた相続財産清算人相続財産、不足分は申立て時の予納金など
全員が放棄し、申立てがない決める人がいない状態市区町村が空き家対策で動くことがある
放棄者が現に占有している引き渡しまで放棄者が保存保存に要する範囲は放棄者が対応する可能性

見落としやすいのは、相続権が次の順位へ移ることです。子が全員放棄すると、亡くなった人の父母や祖父母へ、その人たちもいなければ兄弟姉妹へ権利が移ります。兄弟姉妹が亡くなっていれば、その子であるおいやめいが相続人です。放棄した人から見ると、叔父や叔母、いとこが家の存在を知らないまま相続人になっている場合があります。

家庭裁判所から次順位の親族へ通知が届く仕組みはありません。関係が続いている親族には、放棄した日と家の所在を伝えておくと、後の行き違いを減らせます。

解体や家財の片付けが「承認」とみなされるおそれ

民法921条は、相続人が相続財産の全部または一部を処分したとき、単純承認をしたものとみなすと定めています。雨漏りを防ぐ応急の修繕のような保存行為は除かれます。建物を取り壊すと財産そのものがなくなるため、保存行為の範囲を超えると判断されるおそれがあります。

時期で分けると整理しやすくなります。放棄の申述をする前に解体すると、同条1号の「処分」にあたり、放棄が認められなくなる可能性があります。放棄が受理された後も、相続財産を隠したり勝手に消費したりする行為は同条3号の問題になり得ますし、債権者や清算人との紛争の原因にもなります。

先に確認すること

相続放棄の申述は、自分が相続人になったと知った時から3か月以内に家庭裁判所へ行います。この期間中に建物の解体契約、家財の売却、自動車や貴金属の持ち出しをすると、放棄が認められなくなるおそれがあります。手を付ける前に弁護士へ確認してください。

家財の片付けにも同じ注意が要ります。骨董や着物、製造から年数の浅い家電を業者へ売ると、処分と見られる可能性があります。家庭から出るごみを回収できるのは、市区町村の一般廃棄物処理業の許可を持つ業者か、市区町村の委託を受けた業者です。環境省や国民生活センターは、巡回する無許可の「無料回収」業者による高額請求や不法投棄について注意を呼びかけています。

相続財産清算人と、空き家として行政が関わる流れ

相続人全員が放棄して引き継ぐ人がいないとき、家庭裁判所が選ぶのが相続財産清算人です。2023年の改正で、それまでの「相続財産管理人」から名称と役割が整理されました。申し立てられるのは債権者などの利害関係人と検察官で、申立先は亡くなった人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。保存義務を負う放棄者が利害関係人にあたるかどうかは、裁判所が事情をみて判断します。

裁判所の案内では、申立てに収入印紙800円、連絡用の郵便切手、官報公告料がかかります。相続財産が少なく清算人の報酬や経費をまかなえないときは、申立人に予納金の納付が求められます。金額は事案ごとに裁判所が決め、数十万円単位になることもあります。清算人は、家庭裁判所の許可を得たうえで建物の売却や取り壊しを判断します。

行政の側では、空家等対策特別措置法にもとづき、倒壊のおそれがある「特定空家等」に対して市区町村が助言・指導、勧告、命令の順で対応し、最終的に代執行で解体することがあります。2023年12月施行の改正法では、放置すれば特定空家等になるおそれのある「管理不全空家等」への指導や勧告が加わりました。市区町村長が家庭裁判所に清算人などの選任を請求できるようにもなっています。代執行の費用は所有者などに請求されます。放棄者に請求が及ぶかどうかは、占有の有無を含めて個別に確認が要ります。

※2026年7月時点の目安です。最新の料金・制度は各社公式・自治体、裁判所の案内でご確認ください。

読者の疑問

市役所から空き家の管理を求める通知が届きましたが、放棄済みなら返事をしなくてもよいですか。

しまいごとノート編集部

放置せず、相続放棄申述受理通知書の写しを用意して担当課へ放棄済みと伝えてください。家に住んでいたか、次順位の相続人がいるかも聞かれるので、次の見出しのメモを持参すると話が進みます。

家庭裁判所・弁護士へ相談する前にそろえるもの

1回の法律相談で「解体してよいか」「清算人を誰が申し立てるか」まで判断材料を出せるよう、次のものを手元にまとめます。

  • 相続放棄申述受理通知書、または受理証明書
  • 亡くなった日と、自分が相続人になったと知った日のメモ
  • ほかの相続人が放棄したかどうか、次順位の相続人の有無
  • 法務局で取れる建物と土地の登記事項証明書
  • 固定資産税の納税通知書
  • 建物の現状写真、傷んでいる箇所、近隣からの苦情の内容と日付
  • 自治体から届いた通知文
  • 鍵を持っている人と、最後に出入りした日
  • 預貯金や借入金など、ほかの相続財産の概要
  • 解体業者から見積りを取っている場合はその写し

家庭裁判所の手続案内では、申立書の書き方や必要書類を教えてもらえます。一方で、この家を解体してよいかといった個別の法的判断は受けられないため、その点は弁護士に相談します。収入などの条件を満たせば、法テラスで無料の法律相談を利用できます。通知の意味や解体補助の有無は、自治体の空き家相談窓口で確認できます。

まとめ

相続放棄をした人は、原則として建物の所有者として解体費用を負う立場に立ちません。ただし2023年改正後の民法940条により、放棄の時点で家を現に占有していた人は、清算人などへ引き渡すまで保存する義務を負う可能性があります。

進める順番は次のとおりです。まず3か月の期限内に放棄の手続きを済ませ、その間は解体契約や家財の売却をしない。次に、占有していたかどうか、次順位の相続人、自治体からの通知を書き出し、登記事項証明書と建物の写真をそろえます。そのうえで、解体や清算人の申立てをどうするかを弁護士に相談し、申立ての手続きは家庭裁判所の手続案内で確かめます。

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この記事を書いた人

しまいごとノート編集部

費用相場・手続き・業者選びの下調べ担当

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